ロボットドックといっても、彼の寿命を考えると、外部に出したら費用が見合わないので、ホームドクター、つまりぼくの手に懸かるわけですが、専門の技術者ではないので、原因をつきとめたり、それを修復したりできる自信はありません。
そのまま意識が戻らない、というか組み立て直すことができないかもしれないという覚悟の下、開腹手術が行われました。
表面に見えているところのネジと、ちょっと奥深くにあるネジをすべて外してもなかなか裏蓋が取れない。
隙間は空くけれどもどうしても、カパッと外れてくれないのです。
もしかしたら、今の機械に多いですが、組立て一方方向で、つまりフタをカチッと閉めたら開けられない作りになっているのではないか、という可能性を考え始めました。
でも、ネットで調べてみると、分解用設計図みたいなものを中国のメーカーから取り寄せて自分で開腹したという強者がいることを知り、これなら戻せるはずと思い、まるで知恵の輪を解くかのように、ひっくり返したり回転させたり、いろいろな方向から眺めてみたりしました。
本体前部のバンパー部分がちょうど、背面と腹面の頭の方を挟み込む形になっているので、それが外れれば分離できるのだろうか。
いや、バンパーが上下を挟んでいるとしても、きっちりと挟んでいるわけではなく、障害物にあたったときにカチッと接するように普段は浮いた状態になっているのだ。
そこに上下を連結させる機構があるわけない。
そんなことを考えながら、ぼくはもう半分諦めて、せーので上部と下部を引き割くことにしました。
外科医としては最悪ですが、ここまで来たらマッドドクターです。
「内部が見たい」
そして、力ずくで力を込めて引き割きました。
「ゴメン!ロボ君!」
バキッ!
カラン
嫌な音と、何かが本体の中で転がる音がして、ついにポトッっと小さな骨が落ちてきました。
一目では、これが何でどこに使われているものかわかりません。
それに、折れたようなこともなく、どこからか外れただけという印象のものです。
しかし、「バキッ!」の音は正に骨折の音でした。
そこで、どこが損傷したかを恐る恐る確認することにしました。
まずは、パカッと開いた本体。
まるで尻尾がないカブトガニのようです。
一通り見まわしてみても、どこからやって来たかわからない。
これぞほんとに、どこぞの馬の骨かもわからない部品です。
いや、たぶんこの言葉の使い方間違ってますね。
とりあえず、一通り中身が見えて、特に視覚周りなどでホコリを取れそうなところはすべて見ましたが、問題なさそうという素人の判断を下しました。
あとは、足回りですが、ここはコンポーネントとして一つの囲いに入っていて、ホコリが入る感じがしなかったし、そこがホコリの影響を受けるとしたら、異音とか動作が鈍るとか、そっち方向の症状として現れるのではないかと思いました。
やはりダンシングは視神経から頭脳といった方向ではないかという、勝手な想像から、これ以上の解剖はぼくの技量では無理と判断しました。
カンタンに言うとぼくの興味がここで尽きたということです。
では、縫合へと進みます。
しかし、それにしてもあの「馬の骨」がどこから来たのか、そっちの方の興味はなかなか薄れず、それでもわからなかったのですが仕方ありませんでした。
そして、バンパーをはめて、背面と腹面を合わせて閉じようとしたとき、バンパーがカスカスと動いて、うまくはまりませんでした。
上手くはまれば、バンパーはマウスのクリックの様な感触で浮遊していて、カチカチするのですが、その浮揚感がないのです。
それも片方だけ。
それで、その連結部分がどうなっているんだ?と
覗き込んで、謎が解けました。
上の写真は、バンパー(左縦長部品)が外れている状態ですが、バンパーを取りつけた時、本体と接続しているのは赤丸の部分になります。
これを挿入したままだと、少しの引っ掛かりで落ちませんが、グラグラしています。
さっきの骨はこの円筒形の中にとおして、背腹面を合わせて最後にねじ止めするネジ穴が付いたスペーサーのようなものだったのです。
開腹したとき、表面に見えているネジと奥深くにあるネジがあったのですが、その奥深くにあったネジがそれでした。
だから、無理やり引っ張ったとき、引っかかりが外れて脱臼しただけだったのでどこにも骨折の痕跡がなかったんですね。
そういう感じに、縫合手術も無事終わり、すべて元通りになりましたが、ダンシングは止めさせることはできず、このままでは仕事ができないということで、戦力外通告出されてしまったのでした。
それにしても、2万円弱で約2年頑張ってくれたロボ君、まだバッテリーのスタミナは残っているようすでしたが、残念なことになってしまいました。